壱章‐昔

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騒がしい。 人間達の大きな争いもそうとうなものだった。 千とも万とも知れぬ人の足と馬のひづめは地面を打ち鳴らし、まったくあの時は眠れやしなかった。 ――ゆっくりと、男は体を右にまわして寝返りをうった。 だが今回の騒がしさは騒音だけではない。 みんなが人間を恐れはじめた。恐れが高まり、冷静さを失ってきている。 せっかく人間達が少しの間落ち着いているのだ、この静けさを楽しむべきではないか・・・。 男は右手をのばしてかめの口に手を掛けた。 男の手は肩から手首まで茶色の毛で覆われていた。 「ぺっ」 かめの中につばを吐いて、男は周りを見た。 ごつごつした天然の岩壁。光は差してこない、地中の極上の個室である。 「みんな落ち着かねばいかんのだ。おれのように、静かに・・居ねむりでもして・・・」 男は言い終わると仰向けになり、また居ねむりをはじめた。
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