第一話

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  「もしもしー?」  語尾の上がった腑抜けた声が聞こえる。間髪入れずに俺は言う。 「ヒマ?」 「いや、今凄いイイトコだから。お前なんか相手にしてらんないから」  おや? 「なんだよイイトコって」   「俺はベット上のファンタジスタだぜ?」 「あぁなるほど。相手は誰だよ」 「うーんと、カナちゃん」  俺は"カナ"と名のつく"いかがわしいビデオ女優"を挙げる。 「そおそおその娘」  すぐに見抜いた俺に憎まれ口を叩くでもなく、鯔背は素直に認めた。こいつがそういう人間だということは周知の事実。   「というわけで、お前も男ならわかるだろ? そういう大切な時を邪魔される気持ちが」  …………。   「女の子からならまだしも、お前だとわかった上で電話に出たこと自体、すげえことだろ?」  …………。   「つーわけで、俺とカナちゃんのラブタイムを邪魔しないでくれたまえ」  厳密に言えば、お前とカナちゃんと男優の、だろう。   「ただ、30分……いや45分経てば俺もヒマだ」  なんと嘆かわしいことか。この男にはせっかくの春休みにする事が一つしかないのだ。  心優しい友人が遊んでやらねば、彼は干からびてしまう。俺は応えた。 「じゃあその頃に」 「りょーかい。  あ、それまで電話もメールもすんじゃねーぞ」  変な釘を刺された。不愉快だ。10分後ぐらいにワンギリしてやろう。  俺は携帯電話をポケットにねじ込み、青戸号のスタンドを上げた。    今の下卑た野郎、そう、鯔背伍右衛門である。  人に言えるような志もなく、もちろん勉学に励むでもなく、おまけに言動に品もない。青春の時を帰宅部にてただいたずらに消耗する、万年補習者筆頭候補。そして、俺の友人。  それが鯔背伍右衛門である。    鯔背の家は黄根にある。黄根の端っこだから、こっから自転車で20分ぐらいか。コンビニでも寄ればちょうどいい頃合いだろう。  俺の真紅のママチャリ、青戸号は走り出した。    
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