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閲覧スペースはなにも窓側だけでない。他にもテーブルと椅子が並んだところがある。でもやはり、俺の足は日差しを求めて歩を進める。
そのスペースは天井が高く、窓からの日差しでいつも暖かい。そこに一人掛けのフカフカソファーがいくつも並んでいる。
よろしければ日向ぼっこでもしながらどうぞ、という粋な計らいが見てとれる。
夏は流石に勘弁だが、他の季節なら俺は喜んでそこを選ぼう。
幾つも並ぶソファーの中、最も暖かく最も綺麗で最も快適なソファーが一つある。俺はそいつを勝手にマイソファーに指定した。
偶然だとは思うが、俺がここに来た時、そのソファーはいつもあいている。まるで俺を待っているかのように。
それは今日も例外ではないらしく、全身に光を浴びながら俺との再開を喜んでいるように見える。
さて、読むぞ。俺は朗らかに意気込んだ。腰を下ろすべくソファーの前に躍り出、そして何の気なしに目線を上げた。
その人はそっとそこに腰を下ろしていた。
隅っこの陽の当たらない椅子に座り、静かにそこにいた。
膝の上に小さな文庫本を乗せて、ゆっくりとページを捲っている。
見慣れた制服に身を纏った黒髪の乙女がそこにいた。慎ましくも確かな存在感を放っている。
少し離れたところ。日の当たらないところにいる筈なのに、どこかふんわりとした光を帯びているように見える。
俺は日向、彼女は日陰。そういう位置関係にあるのに、どうにも真逆な気がしてしまう。
うまく言葉にできないけれど、人間の本質的な深層に根差した魅力が彼女の肢体から溢れ出ている。俺はそんな漠然とした印象を衝撃と共に受け取った。
気が付けば、彼女の方向に足が向いていて、それはずんずん前に進んでいく。
おいおい、俺はどうするつもりだ? まさか話しかけるわけじゃあるまいな。
彼女までの距離2メートル程までに迫り、俺の足は止まった。いや、止まったのではなく、進めなくなった、という感じ。
確かにこれ以上は近付けない何か大きな力を感じる。
俺は挙動不審気味に彼女の隣のソファーに腰を下ろした。俺のことを待っていたいつものアイツのことは、知らない。今はそれどころじゃない。
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