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チラチラと隣を横目に見ながら、椅子に浅く座って空飛ぶ山羊を開いた。
申し訳ないけどこの本を読むのはまた次の機会。
今はもっと大事なことがある。
俺は不躾とはわかっていながら、その横顔をまじまじと見つめる。
静かに瞬きをする度に小さな風が起きそうな程に睫毛は長く、伏し目がちな目は少しだけつり目。
朱の入った唇は薄く、口自体も小さい。
鼻筋が通り、顎までの輪郭線がシュッとしたシャープな顔立ち。
雪のように輝く肌は、もう少しで病気を疑ってしまいそうな程に白い。あの悪魔も白かったが、間違いなくそれより白い。
漆黒の長髪は流麗。艶やかなそれは手入れが行き届いているのだろう、健康そうに輝いている。癖のない真っ直ぐな黒髪。櫛はノンストップで毛先まで行くのだろうと予想する。
前髪は目の上で綺麗に切り揃えられていて、長髪ながら爽やかに見える。
凜然としたその姿は、強く俺を惹き付けた。
どうやら俺はこの方とお近づきになりたいらしい。先程無意識に歩いた我が足がそれを証明している。
まず、どうやって話し掛けようか迷っていると、なんと彼女のほうからこちらに顔を向けた。
キリッとした目鼻立ち。意思の強そうな眼。
その抜き身の日本刀のような鋭い目線が俺を突き刺す。
「何かしら」
ひどく無表情に無感動に事務的に口を開いた。
何だか心の温度が3度ぐらい下がった気がした。
少し気圧されたような形で俺は、口を開けないでいた。
「私の顔に何か付いてる?」
整ったパーツが絶妙なポジションに付いていますよ、なんて軽口はこの人の前では許されない。そんな気がして、首を横に振るぐらいしかできなかった。
「そう。出来れば気が散るから席を外して欲しい」
なかなか辛辣な物言いだが、俺がじろじろと見すぎたのが悪い。素直に反省するものの、ここは譲らない。
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