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「用は無いけど、少し話してみたいな、と思って」
六波羅は少しだけ目を大きくした。あくまで無表情だが「何を言い出すんだこの男」と書いてあるような気がする。
六波羅は全身から他を寄せ付けぬオーラを常時放っている。多分だが、こんなふうに言い寄るのは、彼女の美貌につられた頭の軽い男ぐらいなのだろう。
きっとそいつらと一緒に見られてる。
「私に話すことは無い」
「俺にはあるんだ」
有無を言わせぬよう間髪入れず応える。がしかし、俺にそれほどの迫力はやはり無いようで。
「図書館は本を読むところよ」
六波羅は本の表紙を俺に見せるように掲げた。
それは真っ黒の装丁で、白いカクカクとした『アイツの席』というタイトルが引き立って見える。ホラーが好きなのか?
「私はここに本を読みに来た」
六波羅の瞳には、これぞ有無を言わせぬ眼力というものが宿っていた。
冷たい視線が俺を貫く。私の読書を邪魔しないでと。
俺は何も言えなくなり、目を伏せる。
「……すまん邪魔した」
六波羅は既に読書を再開していて、俺の言葉を聞いてるのかもわからない。
完全に眼中にないって感じだ。
俺は落胆を隠すこともできず、ノロノロと立ち上がった。お望みどおり席を外すのだ。
これ以上は嫌われてしまう。いや、手遅れかな。
俺は日向のほうに向かって歩き出した。
「これが読み終わってから、なら」
背中越しに聞こえたその言葉に思わず振り返る。
六波羅は本に目を向けたままページを捲っていた。
おかげで、いつになくゆるんで情けなくなっていた俺の顔は見られずにすんだ。
俺は日向に向かうのをやめて、さっきの隣に座ることにした。六波羅とは一つ挟んで隣というわけだ。
ここで、六波羅が『アイツの席』を読み終わるのを待つ。
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