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「それで、本題は?」
六波羅の冷たい目が、俺を見つめる。何も見ていないようにも思えるし、全てを見透かしているようにも思える。
別に大した質問は用意していないのだが。そうだな、気になる事はこの際聞いておこう。
「噂で聞いたんだが、セクハラ教師を殺しかけたって本当か?」
六波羅の表情は少し硬くなり、眼力がいっそう強くなる。もしかしたら瞳孔が開いたかもしれない。
しまった。怒らせた。
「いや、すまん。言葉のアヤだ。セクハラ教師を撃退したって」
"殺しかけた"は少し穏やかじゃなかった。流石に失礼だ。
恐る恐る窺う六波羅の表情は、強張ってるわけでもなく、睨んでるわけでもなければ、眉間に皺をよせてるわけでもなかった。
いつもの無表情。いや、むしろ今までより少し柔らかい。
「……怒ってるか?」
「そんなことはない。ただ……」
六波羅はあくまで無表情に、俺をじっと見つめた。
「あなたは少し変。皆そこには触れないようにする。まるで禁句か何かのように」
六波羅は少しだけ遠い目をした。
「それをあなたは、随分と……」
「あ、いやすまん。デリカシーが無いんだ俺には」
「気にしてない」
六波羅は満足そうにコーヒーを口にした。
「それで、あの教師のことだったわね。……殺しかけたかどうか」
少しだけ皮肉な言い草。俺は申し訳なさに目を伏せた。
六波羅はそんな俺を気にも止めずに、なんでもないように口を開いた。
「否定はしない」
否定、しないのか?
てっきり尾ひれが付きまくった噂だと思っていた。
この目の前にいる女性が人を殺しかけた。その細腕で? 少し信じがたい話であった。
「殺しかけたと言うより、殺し損ねたと言った方が適切だわ」
些細な訂正に見えて、その実この二つは大違いだ。
"殺しかけた"なら危うく殺人を犯してしまうところだった。そうなる。
しかし"殺し損ねた"だと、
「殺す気満々だった?」
こうなる。
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