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あれから俺は、どうしても読書する気にはなれず、図書館を出ることにした。
時刻は四時で、帰るには早く、遠出するには少しばかり遅い。太陽は中途半端な位置で熱視線を俺に注いでいた。
涼しい風がふっと通り抜ける。嫌な汗は既にひいた。俺は青空に向けて大きく伸びをした。
六波羅は俺が思うより変わった奴だった。勿論、鯔背が言うような危険人物などではないと思うが、普通という言葉は六波羅には当てはまらない。
六波羅は俺を殺せる。それも簡単に。でも六波羅は俺を殺したりしない。無益かつ非合理的だから。
六波羅は無意味なことはしない。
つまり、俺にあんなことをしたのは、警告だろう。『以後私には近付くな』そういった意味があったんじゃないかと推測する。
六波羅は無意味なことはしない。
つまり、どうでもいいと言っていたが、六波羅が教師を殺そうとしたのには明確な理由があったのではないか。
そこまで勘繰ったところで、すっぱり止めることにした。
六波羅の内面についてどうこう言えた義理じゃないし、俺があれこれ考えたところで近付くなと警告されては確かめる術もない。
それに何より俺の春休み最後の日を、そんなことを考えながら過ごしたくはなかった。
俺は一つ深呼吸をして、空を見上げる。ゆっくりと雲が流れ、暖かな陽光が眠気を誘う。
誰か暇な奴んちに行くか。
俺はそう思うのと同時にジーンズのポケットから携帯電話を抜き取る。
電話帳じゃなく、着信履歴から手短に電話をかけた。"暇な奴"つったらまずコイツで間違いはない。
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