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公園の砂の上で、俺はブレーキを握った。
青戸号のスピードは俺の想像以上だったようで、ブレーキングは失敗に終わる。
後輪が地滑りを起こし、前輪を軸にドリフトする。巻き起こる砂塵の中、勢いのままに青戸号は派手な音を立てて横倒しに倒れた。 俺は倒れる直前に、倒れ込むように青戸号から降りていた。ゴロリと身体を横に回し、なんとか立ち上がる。
砂ぼこりが舞い、青戸号の車輪がカラカラと音を立てながら回っていた。
勝った。
彼女に、勝ったのだ。
鼓動が高鳴る。胸が焼けるように熱い。自然と笑みが溢れた。
笑顔に遅れるようにして悦びが湧き上がってくる。全身が歓喜に奮えるのを、俺は生まれて初めて感じた。
きっと彼女が悔しそうな顔をして俺を見ているに違いない。満面の笑みでそれに応えてやるのだ。
俺はジーンズに着いた砂も払わずに、後ろを振り返った。
そこには誰もいなかった。
平和な町並みを背景にして、車両侵入阻止用のポールが二本立っているだけ。自転車も無ければ、人影も無い。暖かな春風が、ただ虚しくそよそよと流れているだけだった。
えぇーーー。
ははは。そりゃないぜ。
俺の悦びがまるで穴の空いた風船のように萎んでいく。この鼓動の高鳴りを、気持ちの昂りをどうしたらいいんだ。
「アハハハッ! こけてんの! ガッシャーン! しかも、満足そう! アッハッハッハ!」
高笑いが聞こえてきた。
彼女は何処だ。
「面白いっ! 面白いよ君! 何者だい!?」
公園の前、少し先に彼女の姿を見つける。
自転車から降りて、ハンドルとサドルに手を添えている。
「なんでだよっ!? ゴールはここだろーがっ!」
俺は狼狽するように大きな声を上げた。
「いやぁ、なんとなーくそこがゴールっぽいなぁとは思ってたんだけどねー、ウチここなんだわ」
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