第一話

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   彼女は笑いながら指差した。その先にはお弁当屋がある。  あ? そんなところに弁当屋なんてあったか?  疑問を浮かべながら目を凝らすと、店の前にのぼりが出されていることに気付く。 『新規開店! デリ弁!』  そう書かれたのぼりの下端には、弁当箱にトンボがとまったようなマークも添えられている。    新規開店ってことは引っ越してきたのか。それなら彼女の事をまったく知らなかったのも頷ける。   「んじゃ、今日は楽しかったよー」  朗らかな笑みを浮かべながら言うと、自転車を押して隣の家と弁当屋の間に消えて行った。    独り取り残されて、茫然自失と固まった。あんなに勝利を喜んだのが恥ずかしくなってきた。  そもそも、最期の最後のラストスパート。どうやらあれは俺が加速したんじゃなくて、彼女が減速していただけだったようだ。    ゴールせずに家に帰りやがった。この場合、棄権てやつか? 俺の不戦勝? いや、まぁ戦ってはいるんだけど。……なんだか納得できない。  結局、どっちが勝ったのかはっきりしないままだ。    その時、弁当屋の影からトコトコと彼女が現れた。 「言い忘れたけど、ソレ使ってね」  彼女はそう言って手を振るとすぐに引っ込んだ。    ソレと言われて辺りを見渡す。俺は青戸号のカゴの中にソレを見つけた。  倒れたままだった青戸号を立て直し、カゴに手を伸ばす。  ソレは小さな薄いピンク色の紙切れ。見れば、クーポン券の類いだった。 『鶏の唐揚げ+2個!!』  素朴な字で書かれたこの券は、手作り感に溢れている。  券の右上に例の、弁当箱とトンボのマークを見つけ、それがデリ弁のマークなのだと知った。    こんなものいつの間にカゴに入れたのだろう。  思えば、この戦いの間、俺はほとんど彼女のテールランプ……じゃなくて反射板を見ていた気がする。  戦いの最中、俺のカゴにこいつを入れる程余裕を持っていた彼女。それに気付きもしなかった俺。    今一度考えてみれば、どちらの勝ちかは言うまでもないように思えた。  
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