30人が本棚に入れています
本棚に追加
4
汚ねー。
その一言に尽きる。
俺は勝手知ったるその部屋を今一度ぐるりと見渡した。
左を見れば、カラフルな山がある。ベッドに積まれた膨大な衣類。無論畳んであるわけもなく、ぐちゃぐちゃと入り乱れている。洗濯後か前か気になるところだが、怖いので確かめたりはしない。
右を見れば、そこはカオスだ。古臭い奥行きのあるテレビを中心に、およそ製作意図の掴めない物が所狭しと鎮座している。
例えばオッサン。身長120センチ程のふくよかなオッサンの人形が笑顔を浮かべて立っている。どこかのマスコットキャラだったのかも知れないが、この汚い部屋ではその役割は果たせそうにない。
オッサンの足元に立て掛けてあるのは釘バットだ。リアル釘バット。手作りらしい。釘を打ち込んだ時に縦に割れてしまうので作るのに難儀したという。
そして前方には砦が立っている。勝手にグラグラと揺れる程高々と積まれているのは、目も当てられないような有害図書の数々。
そしてその砦を背にして鯔背がいる。鯔背はヤングチャンプを読みながら胡座をかいていた。
友人が部屋にやって来たのになんのリアクションもしない。まぁいらっしゃいなんて言われても気持ち悪いだけだけど。
「相変わらずきったねーな」
「あぁ? まだ片付いてるほうだろ」
この部屋をそう評するところがコイツの恐ろしいところだ。
「なんつーか、お前の魂が、だよ」
「汚いってか?」
「綺麗だとでも?」
「"伍右衛門"て書いてピュアって読むんだぜ」
「エロ本をバックによく言えたもんだ」
「これは、宝だ」
「それは、同感だ」
俺と鯔背は共に頷き合った。
「にしても空気悪い。換気しろ」
「あー開けて」
鯔背はヤングチャンプから目も離さずに言った。
俺は窓に手を伸ばす。新鮮な空気が淀んだ空間を駆け抜けた。
「お前も春休みの最終日ぐらい外出すりゃいいのに」
「最終日だからこそ俺は至高の時を過ごすことにしたんだよ」
あー、やだやだ。
最初のコメントを投稿しよう!