第一話

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 それから、鯔背が顔を上げた。 「なんかお前ちょっと汗臭いぞ。何してたんだよ」 「図書館で殺されそうになって、チャリンコで爆走してた」 「はぁ? 何それ」  鯔背はさして興味も無さそうに口を開く。 「まぁ立ってねーで座れよ」 「毎回言ってるが、座るどころか足の踏み場も無いぞ」 「そんなもんは作れ。毎回言ってんだろ」  確かに毎回言われてる。俺は頷いて足下のガラクタを足でどけた。   「こんなん捨てろよ」  俺は床に散らばったゴミをひっつかむ。菓子類の空き箱だ。中身が入っている物もあるが、賞味期限が怪しいところ。  俺は片手に余るゴミを持ち、辺りを見渡す。しかし見当たらない。   「ゴミ箱は?」 「ねーよ」 「ねーの?」 「この部屋にゴミ箱はねーよ」  なんだそりゃ。だから散らかるんだろ。 「それは何か? この汚い部屋そのものがゴミ箱だ、っていう気の利かないシャレか?」    鯔背はヤングチャンプから顔を上げて俺を睨む。 「春休み最終日にわざわざゴミ箱にやって来るお前は、ゴミの中のゴミ、まさしく真のゴミだな」  はっはっは。お互い様だよ。   「そんで何? 殺されそうになったって」 「あぁ、六波羅に会った」 「げっ、マジで」  鯔背がヤングチャンプを床に置き、少しだけ身を乗り出す。 「マジで」 「殺されそうになったのか?」  あれ? 思えば、実際鉛筆を胸ポケットに入れられただけか。 「いやまぁ、冗談みたいなもんだろうけど」 「冗談? あの六波羅が?」 「冗談ってより脅しかな。『アタシに近付くんじゃねー』みたいな」 「うわっ何それ。怖っ! ヤンキー?」 「いや全然ヤンキーではないだろ」  ヤンキーなら昨日会ったし。  
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