30人が本棚に入れています
本棚に追加
それから、鯔背が顔を上げた。
「なんかお前ちょっと汗臭いぞ。何してたんだよ」
「図書館で殺されそうになって、チャリンコで爆走してた」
「はぁ? 何それ」
鯔背はさして興味も無さそうに口を開く。
「まぁ立ってねーで座れよ」
「毎回言ってるが、座るどころか足の踏み場も無いぞ」
「そんなもんは作れ。毎回言ってんだろ」
確かに毎回言われてる。俺は頷いて足下のガラクタを足でどけた。
「こんなん捨てろよ」
俺は床に散らばったゴミをひっつかむ。菓子類の空き箱だ。中身が入っている物もあるが、賞味期限が怪しいところ。
俺は片手に余るゴミを持ち、辺りを見渡す。しかし見当たらない。
「ゴミ箱は?」
「ねーよ」
「ねーの?」
「この部屋にゴミ箱はねーよ」
なんだそりゃ。だから散らかるんだろ。
「それは何か? この汚い部屋そのものがゴミ箱だ、っていう気の利かないシャレか?」
鯔背はヤングチャンプから顔を上げて俺を睨む。
「春休み最終日にわざわざゴミ箱にやって来るお前は、ゴミの中のゴミ、まさしく真のゴミだな」
はっはっは。お互い様だよ。
「そんで何? 殺されそうになったって」
「あぁ、六波羅に会った」
「げっ、マジで」
鯔背がヤングチャンプを床に置き、少しだけ身を乗り出す。
「マジで」
「殺されそうになったのか?」
あれ? 思えば、実際鉛筆を胸ポケットに入れられただけか。
「いやまぁ、冗談みたいなもんだろうけど」
「冗談? あの六波羅が?」
「冗談ってより脅しかな。『アタシに近付くんじゃねー』みたいな」
「うわっ何それ。怖っ! ヤンキー?」
「いや全然ヤンキーではないだろ」
ヤンキーなら昨日会ったし。
最初のコメントを投稿しよう!