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その人は足を組んだまま、両腕を広げて背もたれにのせている。至極偉そうなのだが、どうも様になっている。
「ちょっとそんな顔すんなよー」
煙草を指で挟んだかと思うと小さく口を尖らせた。それからフーと紫煙を吹き出す。
「あの……ナンデショウカ?」
やっぱりヤンキーを前にすると例えそれが女性でも緊張してしまう。
「そんなにビビることないだろ」
元来俺はヘタレであるから、ナンデショウカと堅い口調になるのは当然なのだ。
「えーと、御用件は?」
もう一度言葉丁寧に用件を伺う。
用件など無いに越したことはない。出来ることなら関わりたくない。許されるなら直ちに立ち去りたい。
しかしまことに残念ながら、それは許されそうになかった。
「ソレよソレ!」
その人は俺の自転車のカゴを指差した。
そこには先程コンビニで購入した品々がビニール袋にまとめられている。
「ソレ、チャンプでしょ?」
チャンプとは今、週刊少年誌のトップを行く大人気の漫画雑誌。
現在夕方から始まるアニメのほとんどが、このチャンプのマンガがアニメ化したものである。近頃では過激なサービスシーンを含むマンガも連載中で、そのアニメが深夜にやることもあるようだ。とまぁ、幅広い世代の支持を得ている。
毎週月曜日に発売で、俺の心の友であり先生であり恋人だ。
コイツをコンビニに買い求める事こそが、冒頭で触れた俺の欠かすことのない習慣というわけだ。
さて、確かにこの袋の中にはチャンプがあるが、それがどうしたのか。
「今日発売のでしょ? 読ませて」
俺は発売日以外にチャンプを買い求めたことなど一度たりとも無い。故にこのチャンプが今日発売なことは言うまでもない。
んで? コイツを貸せと?
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