第一話

5/41
前へ
/106ページ
次へ
  「そんな嫌そうな顔すんなって。アタシも女の子だからさ、コンビニで立ち読みってのには抵抗があるわけよ」  よく言うよ。コンビニ前でウンコ座りしてそうなものなのに。  女ヤンキーはそんなことしないのかな? というかそれ以前に、古いか。   「えーっと。何読むんですか?」  その人は、あーと唸りながら天を見上げる。それからチャンプの中でもビッグネームな三作品を挙げた。    それぐらいならすぐ終わるか。それに、生粋のチャンプっ子である俺はチャンプ読者には優しく接することにしている。  俺はママチャリから降りてスタンドを立てた。カゴからビニール袋を取り出して俺もベンチに腰を下ろした。   「やったね」  その人はポケットから携帯灰皿を取り出すと煙草を揉み消して入れた。当たり前の事だが、ポイ捨てしないことは好感だ。  その人が更に足下に落ちていた誰のかも知れない煙草の吸い殻も拾ったのだから、俺は感心した。 「何だよ。そんなに意外かオイ」  どうやら知らずのうちにそんな顔をしていたようだ。無理も無い。滅茶苦茶意外だもの。 「ええ、甚だしく」    その人は俺の言葉に眉をひそめると、大きく溜め息をついた。 「実に心外だね」  携帯灰皿をジャージのポケットに収めると、その人はおもむろに話し始めた。 「煙草ってやつは最低だ。肺を汚し健康を損なう。ひいては空気を汚して地球を枯らす。にもかかわらず中毒性があるんだから厄介だ。そんなもんを好き好んでスパスパする奴はもっと最低だ。そんな金があんなら募金しろとまでは言わねーが、もう少し建設的に使うべきだ」    喫煙者かく語りき。   「勝手なんだよ。喫煙者が喫煙するのは。自分の都合で周りに迷惑かけてんだから。元来喫煙者なんてのは肩身狭く生きてかなきゃいけねえ」    喫煙者更にかく語りき。   「にもかかわらず偉そうに吸い殻捨ててくような奴は下衆だ。自分の勝手で周りに迷惑かけるのはすげーかっこ悪ぃ。アタシはそういう奴にはなりたくない」    なるほど。きっとこの人そう悪い人じゃない。  それに未成年喫煙者にありがちな下らない価値観やカッコ悪い考えを持ってるわけでもなさそうだ。  ある程度大人なんだろう。ただ既にニコチン中毒のようだ。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加