30人が本棚に入れています
本棚に追加
「オマエさん名前は?」
その人はチャンプから目を離さずに言った。
顔も上げずに名前を聞くとは失礼な。とは一瞬思うも素直に名乗る。
「黒井早斗」
「は? 黒い里?」
その間違い。飽きた。
そんなホラー小説みたいな名前なわけがないだろう。
「イントネーションが違う」
「へー。じゃホントにサトってんだ。珍しい名前つけられたね」
言いながら目線をチャンプに戻す。今読んでるので三つ目だ。そろそろ読み終わる筈。
「アタシの名前も珍しい」
こんな副音声で「聞け」と聴こえてくるような言い方されたら、
「へー。なんですか?」
と、おざなりな聞き方になるのもしょうがないだろう。
「ナナ」
ん?
「ナナさんですか?」
「そーそー」
ページをめくりながら間延びした声で応える。
「ナナさん。御言葉ですが、俺の知り合いだけでもナナちゃんは他に三人はいますよ」
高校のクラスメートに、友達の姉貴、そういえば中学の同級に二人いた。
珍しい名前とは言えないと思うが。
「じゃー聞くがー、その中に漢数字の"七"一文字のナナちゃんはいるか」
いやいや。
「そりゃー、いませんね」
「だろー。そんなのって第七号みたいだもんな。なぁ?」
「でもラッキーセブンですし」
「そーなんだよ。博打好きの親父がそっから取ったんだ。悪かねーけど、漢数字一文字ってのはなぁ」
小さな溜め息を吐き出すとまた1ページめくった。
「まぁアタシの名前は文原七っての。覚えといて」
覚えといて、と言われても。そのチャンプを読み終われば、俺がヤンキーと関わることは金輪際無いと思うのだが。
最初のコメントを投稿しよう!