第一話

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  「オマエさん名前は?」  その人はチャンプから目を離さずに言った。  顔も上げずに名前を聞くとは失礼な。とは一瞬思うも素直に名乗る。 「黒井早斗」 「は? 黒い里?」  その間違い。飽きた。  そんなホラー小説みたいな名前なわけがないだろう。 「イントネーションが違う」 「へー。じゃホントにサトってんだ。珍しい名前つけられたね」  言いながら目線をチャンプに戻す。今読んでるので三つ目だ。そろそろ読み終わる筈。   「アタシの名前も珍しい」  こんな副音声で「聞け」と聴こえてくるような言い方されたら、 「へー。なんですか?」  と、おざなりな聞き方になるのもしょうがないだろう。   「ナナ」    ん? 「ナナさんですか?」 「そーそー」  ページをめくりながら間延びした声で応える。 「ナナさん。御言葉ですが、俺の知り合いだけでもナナちゃんは他に三人はいますよ」  高校のクラスメートに、友達の姉貴、そういえば中学の同級に二人いた。  珍しい名前とは言えないと思うが。   「じゃー聞くがー、その中に漢数字の"七"一文字のナナちゃんはいるか」    いやいや。 「そりゃー、いませんね」 「だろー。そんなのって第七号みたいだもんな。なぁ?」 「でもラッキーセブンですし」 「そーなんだよ。博打好きの親父がそっから取ったんだ。悪かねーけど、漢数字一文字ってのはなぁ」  小さな溜め息を吐き出すとまた1ページめくった。 「まぁアタシの名前は文原七っての。覚えといて」  覚えといて、と言われても。そのチャンプを読み終われば、俺がヤンキーと関わることは金輪際無いと思うのだが。  
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