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それからまたも手持ち無沙汰となった俺は、キーが刺さったままだったカブに跨がった。メットはナナさんの頭の上だしいいか。
俺はノーヘルのまま公園内をぐるぐる廻った。
バイクに乗るのは初めてではなかったが、久しく感じていなかった、この風を切る感覚に気分は高揚気味である。
このまま家まで帰っちまおうか、と馬鹿な考えが生まれ始めた頃、遠くのベンチからお声がかかった。
「コラーそこのノーヘル、こっち来なさーい」
かったるそうな声が公園に響く。
俺はそこでUターン。眩しかった夕陽に背を向け、ベンチに向かって右手を回した。
「無免許、ノーヘル、スピード違反。兄ちゃんワルだねー」
眠そうな目をしながらナナさんはカラカラ笑った。
「やっぱバイクって楽ですね。俺も原付免許ぐらいとってこようかな」
「チャリは無償で走るけど、バイクはガソリンて食いもん要求してくるよ。今高いし」
「それで燃費のいい」
「カブってわけよ」
ナナさんは少し誇らしげに、カブをポンと叩く。世界中で愛されるスーパーカブは燃費が良く改造にも強い丈夫なバイクと聞く。
俺も買うならカブかな。んな金無いけど。
「それより、読み終わったんですか?」
「いや、あと一つ」
俺はスタンドを立ててそのままカブに跨がる。
「サトはコイツをどう思う?」
ナナさんはチャンプの一コマを指差した。その最後の漫画は、チャンプ内でも人気のドタバタラブコメディ。いわゆるダブルヒロインもので、優柔不断な主人公が、明るく活発なヒロインと慎ましく清楚なヒロインとの間で目まぐるしく揺れ動くという言わば王道の漫画だ。
その主人公を指差して俺の目を見る。
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