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法興院に着くなり俺は近侍の者に急いで新しい下衣を縫うように命じた。
美々しく着飾った定子の前で一分たりとも損ねた姿を晒したくはない。
例え定子に眼差し一つ向けられなかったとしても、俺の儚い願望のせいか今日この日は完璧な姿でありたかった。
中宮大夫の俺が参列しないかぎり定子の輿は出発出来ない。
皆がそれなりの姿で揃っている中、俺は一人すっきりと一分の隙もない出で立ちで列に加わる。
いよいよ定子…中宮が輿の人となる為に奥より出てきた。
定子が輿に乗り込もうとした瞬間、俺は一目定子を見たいと言う欲求を我慢出来づ、俯いていた顔と視線を上げた。
………あこめ扇で顔を隠していたが、その端より定子の眼が俺の姿を見ていた気がした。
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