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里邸に戻ったわたくしは晴れの衣装を脱ぎもせずに前栽の梅を見ていた。
「宮様、まずお着替えを…」
など申す女房の声に小さくもう少しこのままに、と呟き再び前栽を眺める。
……道長様。
真っ白の下衣で寸分の隙もなく正装を身に纏うていた道長様……
わたくしは知っている、
あの涼しげな真っ白の衣装の下に、恐ろしい程の熱き熱を持った躰がある事を……
輿に乗る間の一瞬、僅かに、わたくしは道長様の視線を浴びた気がした。
あの夜以来、道長様の生の視線に晒されて、わたくしはほんの一瞬……帝の后である事を忘れ歩みを止めててしまった。
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