横笛

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今宵も主上と宮様は息の合った、横笛と琵琶を見事な迄に合奏なさる。 女房共はその絵物語のような光景を目の当たりにし、ここが現世であることを暫し忘れていた。 深夜にもかかわらず、煌々と灯された明かりは楽の音を冴え冴えと御殿の隅々まで響きわたらせ、賞賛の為のため息さえも遠慮がちになる。 そのお姿に、かの国の逸話を諳んじ宮様付きの女房と微笑み合ったりと、わたくしも暫しの心の平安を楽しんだ。 主上は常より笛の音を尊ばれ、物思いに耽る折は勿論、喜ばしい折、悲しみに胸を痛められる折もよく笛を吹かれた。 時にその胸中に添うように、宮様は琵琶を手に取られ爪弾かれる事が多々あった。 今宵の楽の音にはいかな思いがお二方の心根に在ったかは判らない。
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