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「宮の琵琶の音は我が御代に置いて並ぶ者なしだね」
楽の音を堪能された主上は、愛おしげに宮様の手をお取りになる。
「御笛は主上が一番で御座います」
わたくしの横手より、華やかな声の右衛門の君が先程の合奏に感激した様子でお声をかける。
まんざらとも言い難い御顔の主上は微笑みを浮かべ、宮様の御顔を覗きこまれ
「宮は笛をたしなまないのか」
「………笛は、持ち合わせて折りませぬ故」
「一振りも、持っておらぬと」
驚いた御様子の主上に、節目がちに頷かれる中宮様。
「昔は…昔は持っておりましたが…」
小く呟かれた宮様の御声は、恐らくわたくしにしか聞こえなかったようでした。
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