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夢を、見ていた。
黄色を帯び始めた陽の光が優しげな、昼と夕暮れの間の時間だ。
僕は焦っていた。
一瞬僕は自分がどうしてこんなに急いで自転車をこいでいるのかと疑問に思ったが、そんな考えはすぐにどこかに消えた。
開発の途中で放棄された工場地のような場所だった。
雑草の茂っただだっ広い空き地の所々に、打ち棄てられたプレハブ小屋の残骸があった。
淡い太陽の光のせいか、この場所はとても幻想的な雰囲気に包まれていた。
こめかみから出た汗が、頬を伝い、顎へと流れて地面に落ちた。
潮の匂いがする。
僕は直観的に長崎の祖父母の家を思い出した。
小さい頃は毎年帰省していたのに、最近はめっきり行かなくなってしまった酒屋の隣の古い家だ。
夕食に必ず毎回でるごま豆腐はおばあちゃんの大好物で、おいしそうに食べるおばあちゃんを見て僕はどうしてこんなものが美味しいのだろうかと訝しんだ。
優しいおじいちゃんと、無口なおばあちゃんは仲が良くて、いつでも一緒にいた――。
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