序章

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「これでもか!!」 と、言わんばかりに積乱雲が機体を揺らし、まさに今、口に入れようとしていた飴玉を床に落としてしまった俺は、ナーバスにため息をつきながらふと窓を見る。 雲で真っ白。存在意義を無くしてしまったその窓に向かってもう一度小さなため息をつき、そこに映った俺を通り越して逆側の光景に、またまた、ため息をつきたくなる。 遥か上空、沖縄行き航空旅客機の一席。 「あんなことチオに言ってたくせに……。おい、大丈夫か?」 「だって……うぅ……! 気持ち悪……」 と、顔面蒼白、血の気を失ったミコが今まさに御臨終直前なのだった。 ついさっきまで空は雲一つ無く晴れていて、左を見れば、一面に海……と思いきや運悪く翼とエンジン。右を見れば、何を聴いているんだかミコがヘッドホンを両手で押さえ付けながらきゃっきゃきゃっきゃと爆笑を飛ばしている。 「いやね、ゴロちゃんが言うのよ。『あの飛行機、どこまで行くんだろう』って。そしたらタクヤが、『空港じゃん?』だって……ぷっ……くひひひひひ、腹イタぁ……!」 と、涙まで流して喜んでいたのも、急なこの暗天とともに暗転。 『これより積乱雲の影響により機体が揺れますので、シートベルトを……』 というアナウンスと打ち合わせしたかのように絶妙なタイミングでゴロちゃん……否、雷がドーン!! 機体がグラグラグラ!! ミコの小さな顔から一瞬にして笑みが失せた。 「飴、舐めるか?」 ミコの唇がぱくぱくと動く。 「……ししし、死ぬ」 やっと絞り出したような声。 「遺言、残しとくか?」 ……あぁ、雷と言えば、あの日を思い出す。 夏休みの始まる、2週間ほど前の事だ。 あの時も、こんな感じに雷が鳴っていたな……。
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