新天地

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新天地

 気付けば、他愛のない世間話をする事に必死だった。  初めて会う人と二人きりの強制ドライブは、気が重すぎる。 「あともうちょっとで寮やから」  関西訛りのお喋り好きな人でよかった。私は愛想笑いをしながら言葉を返す。 「なんかノンビリした所ですね。田んぼも多いし」  嘘つきだ私は。実家の周りに比べたら、普通の住宅街だとか思っているくせに。 「道が舗装されてないですね。雪が降ったら大変そう……タイヤ交換はもうされてるんですか?」 「は?」  頃合いは11月半ば。地元じゃ山沿いに雪がちらつく頃だ。 「しませんよタイヤ交換なんて」 「え?」  今度は私が驚く番だった。 「雪降りませんもん、ここら辺」 ――雪が降らない?  にわかには理解できない言葉だった。 「あ、あっこですよ」  私が話に詰まっていると、田園の中にポツリと、2階だてアパートが見えてきた。安っぽい作りのあれが、私の住家になるのか。何故か緊張し始めていた。
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