00 プロローグ

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鑑凪由衣━かんなぎゆい━はどういう人間なのか、と尋ねられれば、恐らく彼女を知る人の十中八九は「学園のアイドル」と答えるだろう。 もちろん僕、来栖悠━くるすゆう━も御多分に漏れず、同じような凡庸な解答を導き出していただろうし、彼女にはそれを言わしめるだけの実績と現実があった。 成績は常に学年トップクラス。 容姿端麗で、その鼻にかけない性格は万人に不快を感じさせないものだった。 高嶺の花というよりは街広場の女神像と言った所だろうか。   「天は二物を与えず」   なんて格言を残した偉人が誰だか僕は知らないが、彼女を見れば菓子折りの一つでも持って侘びに来るだろう。   とにかく彼女、鑑凪由衣は完璧だった。 他人にあまり興味を持たない自分ですら、彼女の事は伝聞や噂で知っていたし、面識もないのに彼女とすれ違う時は意味もなく緊張する事さえあるほどだ。 かといって彼女に興味があるか、と言えばそうでもなかった。 クラスの男共が彼女に熱を上げてるのを横目に、机で一人「人間失格」なんぞを読み耽っているくらいだ。 ひょっとして人間、というより男として失格なのは僕の方かもしれない。   人間、興味がないとまた巡り会う事もないようで、自分は今年高校二年、もうあと2ヶ月くらいかで高校三年になるが、中高一貫校である我が校、「佐倉高校」で彼女と同じクラスになる事は一度としてなかった。 とは言っても一学年8クラスもあるこの学校で、5年間同じクラスに当たらない事がそんなに珍しい事か、と言えばそれは否であろう。
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