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01 屋上の雪
「あなたに聞きたい事があるわ。」
積もる雪と吐く息の白さ、どちらがより白いのかなぁ。
なんて詩的な事を考えていた。
訳ではなく、いつも通り放課後、教室の隅の方にある自分の席で「氷点(下)」を読んでいた僕に、通常では考えられないような(といっても彼女の通常など僕の知るところではないが)冷たい声が鑑凪から降り注いできた。
「……はい?」
やば、声が裏返った。
「あなたに聞きたい事があるって言ってるのよ。耳悪いの?」
別に聴力に難があるつもりはない。
ただいきなりの訪問に驚いて思わず返してしまっただけだ。
決してチキンなどではない事を僕の名誉の為に記しておく。
「いや聞こえてたけど…僕に聞きたい事?」
「そうよ。そうでなきゃ私がどうしてあなたの所に来るって言うの?」
こっちが聞きたいくらいだ。
「いや知らないけど…それで聞きたい事ってなんだ?」
ようやく会話になってきた。
「そうね。ここじゃ説明しづらいから屋上に行きましょう。ついてきなさい。」
あの噂の芳しき鑑凪お嬢様から放たれるつっけんどんな口調に戸惑いたいところだが、面識のない有名人の突然の訪問に、僕の脳みその容量が費やされ、そちらにまで驚く事が出来なかった。
寒い。
当然である。
空は高く、晴れてはいるものの、雪が積もったままなかなか溶けないような気温に加え、屋上という高度も相成って風が強いのだ。
こうなると寒いというより冷たいである。
「私、見たのよ。」
鑑凪は先ほどの流れのまま会話を繋げるように、この寒さになんのリアクションも見せずに口を開いた。
「あなたが」
「あなたがトラックを片手で持ち上げるのを。」
ほう 見られたのか あれを
と言うと少し悪役っぽくなるが、なんの事はない。
サイドブレーキをかけ忘れたまま坂道に止めていたトラックが重さに耐えきれず、通りがかったおばあさんに向かって滑ってきたのを僕が「あの力」で止めたのだ。
もちろん素で見られたら大変ややこしい事になるのは必定なので、注意をはらって止めたはずだったのだが…
どうやら見られていたようだ。
ああもはっきり言われたのだから今更隠しようもないか。
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