第1話:MORS

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「蘇格蘭の家にしちゃあ、ご立派な家だ」  大きな屋敷を安侮達は見上げる。ケルはこの屋敷にいるのだ。そして外には何も感じないと分かると、安侮は扉に手を掛ける。  その時、中から突如食器類の割れる音などが響き渡り、安侮の手が止まった。 「ギャアアァァ!!」 「い、いやあぁ! 誰か助けてえぇ!」  二人がその場でジッとしていると、中から食器類の代わりに肉を何度も刺される音が、扉の僅かな隙間から漏れるのが分かる。その音が鳴り出してから、中の人達の声が次々と止んでいく。そして人々の声が完全に止むと、刺される音から、千切れる音や潰れる音へと変貌していった。明らかにご馳走を貪る音である。  その音を聞き続ける安侮は良い意味で肌を震え上がらせ、目を細めると、歯をニヤリとした隙間から見せる。 「やっぱ……たまんねえなぁ、人の悲鳴と、血の臭い、そして肉の味……。全ては美食の元。ゾクゾクする……」 「安侮」 「ああ」  飛龍に安侮が振り向くと、飛龍は拳銃を取り出し、鍵穴に向かって発砲した。鍵穴は一発で壊れ、扉はギィ……と音を立て、独りでに開いた。  中の明かりはついていないが、所々に窓がある為、青い光が不気味に屋敷内を照らし出した。開かれた瞬間から血の異臭が立ち込めているのが分かる。普通の人間ならば、思わず顔を反らしてしまいたくなるだろう。  ロビーの真ん中にいるのは先程の男。男は今、若い美女の首に噛みつき、血をすすっているところだ。周りに転がるのは血だらけの人形──ヒトガタ──達。既に息絶えた者もいるが、中にはまだ生きている者もいて、たまに体の一部をピクッ……ピクッ……と痙攣させていた。既に食された男達は、足や手位しか残っていない。女達は体から血を大量に流し、高級な赤い絨毯をどす黒い赤で染めていた。
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