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「失礼、ケル様?」
安侮は態とらしく様付けで呼び掛ける。
ケルの食事の音が止み、生命が尽きた女性の体はガクンと傾く。
ケルは立ち上がり、くるりとターンをした。優しい微笑みの中、口元から上着に掛けて血みどろとは、何とも不気味且つ美しき光景であろう。
「これはこれは。先程はどうも」
ケルは腹に軽く手を当てた。
「執事の癖に、お行儀の悪い食べ方だねぇ」
くつりと喉を鳴らす安侮に対し、ケルは目を閉じ、フッと鼻で笑う。
「これが、この屋敷での私の最後の仕事でしてね」
「最後の晩餐ってか。上手いこと言うな」
安侮が会話している間に飛龍が一歩前に出、小型拳銃の銃口をケルに向けた。
「お前はメトゥスだな」
無表情だが、殺気だたせる目で相手を睨み、低く呟いた声で問う。
ケルは笑みをやめること無く飛龍へ目を向けた。
「おや、いきなりその様な質問をされるとは意外でした。貴殿方は一体?」
「俺達か? 俺達は……」
安侮は言葉を濁しながら背中に手を回し、ハンドルを手に持つ。その瞬間に、背中を浴びる月光に寄って、刃がキラリと光を放った。
「悪魔の殺し屋だ」
そう答えると、ケルは面白いとでも言う様にクスクスと笑み続ける。
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