第1話:MORS

18/27
前へ
/100ページ
次へ
 安侮はハンドルの真ん中にある十字を両手で握ると二つに分け、二つのナイフにした。向かってくる刃物達を次々と弾き飛ばす。だが、風が方向を変えぬ限り、それは無駄に終わる。 「チッ、たかがメトゥスの癖に」  安侮は刃物を避けながら多少苛立って来ていた。彼の笑みは消えており、妙に不機嫌になっている。  飛龍も発砲をし、刃物を砕いてゆくが、元々割れた物やナイフ等は、破片と化しても鋭利な凶器に変わりはない。寧ろ砕け散ったことで更に危険度が増してしまっていた。飛龍も軽く舌をうち、飛んでくる破片の粉達から、腕で己の体をなるべくガードした。赤い小さな鮮血の小さな玉が八方へ散るが、飛龍はそれは気にしないでいた。  飛龍はふと、ケルの方をチラリと見た。良く見れば、ケルは風を操っているだけで無防備である。刃物ばかり気を取られていたが、始めから彼を討てば良いのだ。そう考えた飛龍は、機関銃の銃口をケルに向けた。ケルがその殺気に気付き、ハッとこちらを向いた瞬間に機関銃が雄叫びを上げる。  数秒後、機関銃の音が止んだ。風は一向に止む気配は無い。正かとは感じたが、それは的中していた。  ──飛龍は見開いた。結局は、弾の無駄遣いだったのだ。  ケルと飛龍の間には、この屋敷の者だった人形が浮いていた。飛龍の弾に寄り、蜂の巣状態となり、服は真っ赤な色と、真っ黒な模様で彩られていた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加