第1話:MORS

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 ケルは何も答えられない。これ以上の動きは許されない気がして、少しも動けないのだ。 「がはっ!」  安侮は、ケルの胸を思い切り踏み付けた。そしてそのまま足に力を込めていけば、相手の体から骨が軋む音が僅かながらに聞こえる。明らかに骨をへし折ろうとしていた。 「さっさと死んじまいな、この腐れ味噌野郎が」 「あ……が……あぁっ」  ──ベキベキ……。  胸が有り得ない程にへこみ、骨が折れる音が大きく聞こえた。同時に肺が破裂したらしく、ケルの口から赤い血が一度、ゴフッと吐き出される。  だが本人まだしぶとく生きている。生身の人間なら、もうここで息絶えてもおかしくない。現世に合わせた肉体でも魔力を宿しているからだろうが、その分地獄よりも重い処罰を、死神から受けることになるのだ。  安侮の表情は更なる闇の笑顔になり、踏み付ける足の先を左右にグリグリと、時間をかけて動かす。服の弾力は完全無視され、ブーツの底が相手の体に更にめり込んでゆく。足が沈む度に、ガクガクとケルの体は痙攣し、息をするのも困難になっている。ただ漏れるのは、唸りしかない。 「ひ、ぎ……、が……」 「……消えろ」  そしてとどめと言わんばかりに、最大の力を足に込めた。  ──メキィ……ッ! 「が、ああああぁぁっ!」
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