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その瞬間、相手の体が弓なりに反れ、口内と胸から赤黒い液体が弾ける。
そして体が、紫の巨大な霧へと変化した。それが空中で、次第に何かへと変形してゆく。
「!」
風が止むと、飛龍もそれに気付いて見上げる。
その紫の霧は、一瞬だけ灰色の馬の形になった。
(!……ケルピーだと?)
飛龍は目を少し開くが、内心はかなり驚いていた。
安侮が、円形に戻したハンドルを差し延べ、誘うようにこちらへスウッと動かす。霧はそのまま安侮のもう片手へ向かい、手の中にある黒い小さな箱へと吸い込まれる様に入っていった。漏れないようにと、蓋をした後も、鍵穴からカチャリと言う音が、確りと鳴った。
そして荒れた屋敷内に、漸く静寂が訪れた。
「安侮」
「よう、飛龍。死ななくて良かったな」
正に他人事な言葉を放つ安侮だが、飛龍はこれっぽっちも気にしていない。今は、先程のメトゥスを考えていた。
「奴の正体を見たか?」
「きれーなグレーの馬だろ?」
「主人を喰らい、女の血を飲む水の精──ケルピーだ。本来なら、川に棲んでいる筈」
「はぁん。水属性が風の術を? 何を考えてるんだか」
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