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トーキョー教会内には、若干暗めの個室が幾つかあるが、MORSメンバーの主な休息場所となっている。
「慈しみ深き友なるイエスはー罪とが憂いーをとりさりたもーう」
何かを口ずさみながら個室へ現れたのは闇乃。おまけに少し乗り気でそれを歌っていた。
「心の嘆きーをつつまずのべてーなどかはおろさーぬ負える重荷をー」
「今時のガキさえ歌わねえのを良く歌えるな」
闇乃はその声に振り向いた。
壁側に設置されている黒ソファに腰を下ろし、組んだ足をぶらぶらさせている男──安侮がその声の主だ。彼は片耳に小さなイヤホンを取り付けている。何かを聞いている最中で、組まれた足の踵部分でリズム良く床を軽く叩いている。
闇乃は、ああそう言えばと、彼の好きな音楽ジャンルを何と無く思い出し、クスッと微笑してから、壁にある鏡の中の自分を覗く。
「時代が変わっても、歌は残るものだよ。私は好きだね、賛美歌」
「キリシタンは未だに歌ってそうだがな。上司もまだ若いんだから、流行りにも乗ってみれば?」
趣味で髪型を良く変える闇乃は、今回はアップにしようとしていた。髪縛りを口にくわえ、長い黒髪をまとめて上げる。そんな闇乃を後ろから見ながら、安侮は指で挟んだCDジャケットをヒョイッと持ち上げて見せた。
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