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飛龍は少しだけ見開いた。頭の中でとっさに浮かんだのは、彼女の姿だ。
彼女について行ったきり、安侮はあれから何も連絡して来ない。
正かとは思いたいが、飛龍は馬鹿な真似ばかりする安侮を心配なんかしたくなく、内心で息を吐いた。
「ところで安侮はどうしたの?」
「……女について行った」
飛龍は呆れた口調で吐き落とした。それを聞いた闇乃は目をパチクリさせる。
「安侮ってそこまで女好きだった?」
「知らん」
無表情でも苛立つ気持ちがみえみえな飛龍に、闇乃は困った笑みを作った。
‥
時は既に日没を迎えていた。
リーナは、ダイニングルームにある暖炉の前の椅子に座っていた。安侮は変わらず同じ椅子に座っており、カーテンを開いた窓から、闇に覆われてゆく夕空を見ていた。
「ところで安侮さん」
暖炉の燃え盛る火を見つめながら、リーナは彼を呼んだ。安侮は無言で彼女へ顔を向ける。
「貴方、言いましたわね、殺し屋だって」
「そうですが、それが何か?」
「……なら、血を見るのは好きと?」
そう問う彼女の声が急に静まった。同意を求めるような、ボリュームは小さいが、どこか圧している思いが込もっている。
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