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シャラン……と、薄い光物が擦れた音を響かせれば、リーナの握る部分は金色の柄となり、十字架の中心は白銀色の刄へと変化した。その刄は、リーナの三分の二程の長剣で有る。
「ま、吸血鬼に十字架何ちゃらはどーでも良い。相手が巨大な眩い十字架を掲げるキリシタンであっても別に崇めたりはしねえしな」
不気味な笑みは絶やさず、十字架の剣を眼に映せば安侮はそう謂い放つ。
「フフ、この十字架に張り付けてあげますわ」
刄に指先をそっと這わせながら、リーナは美しい顔立ちをさせる微笑を浮かべた。
翼を大きく一振りすれば、其れで一瞬だけ巻き起こった暴風と共に安侮との距離を瞬く間に縮める。それは、今にも二人の唇が重なりそうな程。
安侮はニヤリと歯を見せると、ハンドルを上に振り上げ、リーナの向けてきた刄先を上へと向かせた。只の美しい夜空が壁と成り、二つの武器の声を交わらせ響かした。二種の刄が交わる度に旋律を奏で、二人は寝台と謂う名の屋根の上で踊り続ける。
「ふふ、可愛い坊や。私の夫が、彼方なら善かったのに」
武器の力較べをしている間に、リーナの微笑が安侮に優しく振り掛る。対する安侮も、換わらず妖笑をリーナへと向ける。
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