・一之巻。

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          蒼氷恋謳      ――赦す代わりに結んだものは、絶対誰にも云わないという、契約にも似た約束。    私はその約束を護った、誰にも云わず、命を救けられた代償に口を閉ざした。    そうしてある日、やってきたのは美しい娘だった。    ――私を、嫁にして下さい。    その娘に彼女の面影を見出だした事で、一目見て気に入り、夫婦となる決意をした。    ずっと一緒に居ると誓い合った夜から、もう幾年が過ぎたのか。    幸せな日々、子供も産まれ、毎日の仕事にも励む。    だけど、時折不安になる――。    彼女は一向に笑ってくれない。  それでも、彼女が幸せである事は理解る。    それなのに、不安になるのは何故だ。    嗚呼、それはきっと、彼女が私に何も云ってはくれないからだ。    ――愛している、と。    たった一言、それだけを伝えてくれたなら、不安になる事等ないのに――。    彼女の心は冷たく鎖され、凍り付き、総てを阻んでいるのだ。    確かに私を愛してくれているというのに、その確信が、真実にあるというのに。    何故、何故だ、何故、こんなにも不安になる……? 私はひたすらに、一心に、真実誓って、愛していると、必死に云い続けているというのに――!    恐い、怖い、こわい――!    今、何よりも君の愛を失うのが怖い……。    だから少しでも、彼女の興味を引くために。  ほんの僅かでも良いから、彼女の心に温もりを灯すように。    不思議な体験をしたと、彼女に話してしまった。  話し終えた私は、彼女の表情を伺う。    蒼白な顔面に生命の色はなく、彼女は私を、怨んでいるようにさえ思えた。    長い、永い沈黙――。    降り積もり、降り募る雪が総ての音を消し去り、静かなる刻が過ぎる。    やがて、その白い頬に伝う泪が冷たく凍る。    ――何故、話してしまわれたのですか……?    小さく紡がれた聲は、あの刻を過ごした、彼女のものだった。    彼女は泣きながら、もう此処には居られないのだと云った。    そして、最後に私を見て哂ったのだ。    ――私は貴方を、愛していました。    言葉と共に消え入る彼女、跡には水溜まりが残り、そして私は残された――。    彼女は去ったけれど、これからも私は生きていける。  涙を流しながらも、彼女は確かに、私を愛していると云ってくれたのだから――。
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