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他にも、現像した写真は次々と、実に様々な顔を僕に魅せてくれた。
あのフォトグラファが開いていた、写真展会場に飾ってあったフォトグラフィ、それらには到底及ばないのだが、僕が撮った写真達にも、素晴らしいものを感じたのだ。
言葉にする事の出来ない感動、嬉しさのあまり写真を持つ手は震え、いつの間にかぽつぽつと落ちる涙――。
感動のあまり泣いてしまった事にようやく気が付き、慌てて涙を拭うと気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。
写真を一旦傍の机に置いて立ち上がると、背後にある本棚からとある冊子を取り出す。
そこにはかつて見たフォトグラファの写真と、プロフィールが書き込まれている。
自分にも夢があった。
それは多分、フォトグラファになるというものではなかったけれど、それでも都会の激流に呑まれ、夢を見る事すら忘れてしまっていたのは事実だった。
だけど彼は、こんな僕にでも、夢を見る事の楽しさを、もう一度だけ思い出させてくれたのだ。
奇跡はこの手の中に残っている。
支えてくれた人達の温もりも、忘れてはいない。
何より最高なのは、写真の中にいる僕が浮かべた笑顔――。
僕はこれまで、幾度となく人生の転機に差し掛かり、迷う事なく突き進み、かけがえのない体験を沢山経てきた。
それも全て、あの写真展に、気紛れに足を運んだ日から決まっていた運命なのかも知れなかった。
その日一晩中涙の止まらなかった僕は、泣き腫らした目のまま再び飛行機に乗り、お世話になった人達に写真を見せながら、お礼を言って回った。
皆我が身のように喜んでくれて、僕は彼らと抱き合いながら、日本に帰ったら、一番にあのフォトグラファに逢いに行こうと考えていた。
最高の瞬間を与えてくれて、ありがとう、と――。
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