君のために

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「寒い……」  母に頼まれたゴミをゴミ置き場に捨て学校へ向かう。現在朝の8時、真冬の寒さにくじけそうな今日この頃。  学校への道のりもいつもの倍近くに感じます。 「凍える……」  ぶえっくしょん、大きなくしゃみをして肩を揺らした。 「……帰りたい」 「寒いの嫌いなのっ?」  うしろから、僕とは正反対の元気な声。  振り向くと、うさぎの耳当て、ぼんぼんのついた毛糸の帽子、真っ白のマフラー、イチゴの手袋をした女の子がニコニコして立っていた。 見たことない子だな。 「嫌いだよ」  僕はむき出しの手にはぁっと息を吹きかけた。 「あたしは好きよ」  ニコニコ、ツインテールを揺らす。 「あっそ」  君が寒さを好きかどうかなんてどうでもいいよ、第一、僕は君のことを知らない。 「あたしは好きよ」  僕の返事が不満だったのか、また繰り返す女の子。 「わかったよ」  なんだか面倒くさいな、と僕はくるり、また歩き始めた。 「あたしは、好きよ」  女の子はなおも言う。 「わかったって」  なんか怖いな。僕は歩くペースをあげた。 「好きよ、……あなたが」  ばっと振り返る。 「……好きよ」  涙をためて、女の子は立っていた。僕はいまきた道を戻った。 「君はだれ?」  僕はもう女の子から目が離せなくなっていた。  女の子は黙って、ゴミ置き場を指差した。 「あたしはあなたのために、あたし自身のために、もう少し一緒にいたかった」  ピュウっと冷たい風が頬を濡らした。  女の子は風とともに消えた。僕はすぐにゴミ置き場のゴミ袋をあけた。  中には、小さいときに初恋の女の子からもらった、イチゴを持った、薄汚れた白いうさぎがいた。
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