優しい気持ち

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 カランコロン  喫茶店のドアを開ける。もわっとあたたかい空気。  カランコロン  ドアは私を引き込むと、ぐぃーっとすぐに閉まる。  私はこの音が好きだ。 「いつものください」  カウンター席に座り、仏頂面でたっている店員に言った。 「……」  無言で、店員はカップにホットチョコレートを注ぐ。 私はその間、外の寒さで冷え切った帽子と手袋をとった。 「もうね、雪が降りそうだったよ」  私と店員、二人きりの空間。 「空は灰色だし、空気は冷たいし」  店員は私の前にカップを置いた。ゆげが真っ赤な私の鼻をあたためる。 「あったかー」  私はカップを両手で包んだ。そしてそのまま口に運ぶ。  ほっとする。 「圭吾さんの淹れるホットチョコレートは格別ね」  毎日のように通って、やっと名前を知ったのが一ヶ月前。 「優しい気持ちになるよ」  私の名前を覚えてもらったのが三週間前。 「圭吾さんはどんな飲み物が好き?」  いま私の欲しいのは、圭吾さんの笑顔。 「……カフェオレかな」  小さいけど、よく通る低い声。  私はカップを置いた。 「そうなんだ! じゃあ今度頼むっ」  いいこと聞いた、と圭吾さんの顔をマジマジと見た。  やっぱりかっこいい。でも、なんか今日は笑いをかみ殺してるみたいな表情…… 「ヒゲ、」  圭吾さんはナプキンを私にくれた。 「ヒゲ?」  私は鏡をポケットから出した。ホットチョコレートが口のまわりにまん丸くついている。 「わー、ありがとうございます」  圭吾さんのくれたナプキンでゴシゴシ拭く。 「取れました?」  圭吾さんに聞く。  圭吾さんはクツクツ笑った。 (あ、笑顔みれた)  私の胸は躍った。 「まだついてる」  親指が唇をかすめる。  ドクン、顔が沸騰した。 「ぁ」  それに気づいたのか、圭吾さんも赤くなった。 (圭吾さんの照れた顔も見れるなんて)  私は嬉しさと恥ずかしさで更に顔を赤くした。  店内にはクリスマスのジングルが流れていた。
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