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「うー、寒い」
冷たい風がまとわりつく。コートを着ても、マフラーをしてもまとわりついてくる。
ずびっと鼻をすすった。
「肉まん食べたいな……」
帰り道、ぼそっとつぶやいた。
一人で歩く帰り道は、もっとあたしを寒くさせる。
「うー」
ホッカイロを破れそうな勢いでさすりながら、早足で歩く。
「おっ」
ふいに美味しそうな匂いが漂ってきた。
「この匂いは……肉まんっ」
クンカクンカ、匂いはうしろからやってきてる。
ばっと振り返ると、同じハンド部の後輩の姿。
「いいな……」
じゅるり、よだれが垂れそう。後輩は一瞬びくっとして、肉まんをあたしに差し出した。
「いいのっ?」
あたしは返事も待たずにホッカイロをポケットにしまって、両手を差し出した。気分はまるで、待て状態の犬のよう。 次の瞬間、あたしの手にはほっかほかの肉まんがいるはずだった。でも……肉まんは後輩がはむり、と一口食べ、
「あげませんよ」
ニタリ、と笑う。
「なーっ」
期待させといて、ひどいじゃないか! 心の中でわーわーわめく。
「俺の懐は寒いんです」
美味しそうに湯気をだしながら、はむはむしゃべる後輩。あたしは無駄になった両手を、ポケットからだしたホッカイロであたためはじめた。
「一時の肉まんより、長時間のホッカイロ!」
見せつけるようにあったまってやった。
「あ、いいなぁ」
肉まんをあっという間にたいらげた後輩は、あたしのホッカイロに釘付けだ!
(しめしめ、復讐だっ)
「あーぬくいぬくい」
「貸してってか、ください」
「やだ」
ハッキリキッパリ断ると、後輩は何を思ったのか、
「あったけー」
ホッカイロをつつむあたしの手を両手でつつんだ。
「……っ」
あたしは寒さのせいか、手を触られたせいか、頬を真っ赤に染めた。
「いただきっ」
後輩はいつの間にかあたしの両手からホッカイロを奪取して、自分の右手に握っていた。
「あー、返せっ」
あたしは後輩の右手に左手を伸ばした。すると……
「えっ」
あたしの左手も後輩の右手に捕らえられ、ホッカイロの熱さと後輩の手の冷たさを感じる羽目になった。
顔をあげると、鼻まで赤くした後輩が、照れくさそうに笑っていた。
さっきまでまとわりついていた冷たい風は、ぬるい風に姿を変えた。
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