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ドキンってした。
ドキンドキンってした。
鼓動が全身を駆け巡って、私の体中を赤くした。
「これが好きって気持ち」
初めて知った。こんなに破裂しそうなものだなんて、知らなかった。
いっそのこと、知らないままの方が良かった。
「好きです」
のどまできて、そこで詰まる言葉。あと一歩が出ない言葉。
「あなたの名前を教えてください」
電車のホームで会う後ろ姿に問いかける。
名前も知らない、後ろ姿の彼。わかるのは、西高の学ランを着ていることだけ。
車両は2、朝8時の電車。私の日課。最初は私が遅刻しそうになって急いで乗った車両だった。息を乱して乗ってきたボサボサの私、あなたはぷっと笑ったの。
もしかしたら嘲笑だったのかもしれない、でもあたしには微笑みだった。
綺麗な笑顔に……あっという間にさらわれた。
「……あ」
電車がきて、バタバタと乗りこむ。私はうしろから押されて、倒れそうになった。
「わ」
なんとか電車には乗れたけど、バランスを崩して、前に倒れ込む。
「大丈夫ですか」
寸前、大きな手が肩をささえた。
「あ、はい、ありがとうございます」
私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら、深く頭をさげてお礼を言った。少し低い、でも明朗な声。
顔をあげると、彼だった。
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