一生もんの出会い

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結局怜華は早退する事になった。彼女の両親は共働きなので迎えに来れず、歩いて帰るしかない。一人娘の怜華はいわゆる“鍵っこ”で、幼稚園や小学生の頃学校で発作が起きても怜華は休憩しながら帰っていた。中学校へ入学しても早退するのは珍しくなく、怜華は麻奈に校門まで見送ってもらい、学校を後にした。学校を出て間もなくして、突然怜華の腕に打撲の痛みが走った。意識が戻ってからも痛みがあったが、それは気にならない程のものだった。怜華は顔を歪めながら、怪我をした左腕をさする。すると、道の真ん中に何かが落ちているのに気付いた。怜華が近づいてみると、それは写真だった。 すぐに誰かの落とし物だと分かった怜華は、写真を拾い始めた。数枚の写真の中に怜華の興味を引くものがあり、怜華は手を止めて写真に見入る。B4版の用紙に写っていたのは、壮大な渓谷の写真だった。滝の水しぶきの中に、霧掛かった虹が丁度真ん中に架かっている。 「きれい…」 怜華は美容師だけでなく、風景…特に絶景にも興味があった。熱心に写真を見つめる怜華。しかしハッと我に返り、道路に散乱している写真を再び拾い始める。 と、怜華は辺りを見回す青年を発見した。青年は首からカメラを下げている。『あの人がこの写真を落としたんだ…』と悟った怜華は、彼に話し掛けようとする。が、お互いの目が合い、彼の方から怜華に話し掛けてきた。 「その写真、君が拾ってくれたのか。ありがとう」 爽やかな笑顔で感謝され、更にイケメンだったので、怜華は顔を真っ赤にする。 「い、いえ…。この写真、あなたが撮ったんですか?」 「そうだよ。僕は、フリーカメラマンの槻島高央。ここで出会ったのも何かの縁だと思うから、よろしくね」 握手をしようと、高央は手を差し出す。怜華もためらいながら手を伸ばす。 その時強い風が吹き、怜華の手から写真が離れた。写真は風にさらわれるように宙を舞って、更にバラバラになってしまった。高央は走り出そうとしたが、その数秒前に怜華の体が無意識に動いていた。写真を追う怜華だったが、急に体を動かしたので発作が起きてしまった。
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