稼働

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 数分飛んでいると、錆びれた茶色いこじんまりとした建物が下に現れる。 「こんちゃーおっさん?おるー?」 「お、なんだ。拓真と直樹じゃねぇか。裏賭けか?」  奥から小柄な人影がのっそりと出てきた。  少し酒臭い息を吐き出しながら小さく笑った。 「そそ。いつなら空きある?」  少し古ぼけたカウンターに乗り上げながら直樹が言う。  直樹の言葉に憎たらしい笑い声を残し、カウンターの下に潜り込む。ガサゴソと蠢くカウンター。 数分後、現れたおっさんの手には、数枚の紙切れが握られていた。 「あー・・・最近人数制限がなぁ・・・土曜なんかどうだ?」  紙切れを手にしたおっさんが顔をしかめた。 「おう、いつも暇やからな~ええよな?」 「ええよなって・・・どうせ、聞く気、ねぇんだろ?」 「わかっとるならええねん。おっさん、よろしくー」  苦笑した拓真にかまわずに直樹は、おっさんが紙切れからむしりとったエントリーの半券をもらった。 「今回は何番?」 「ラッキー7や。」  裏賭けは名前こそ大層悪ぶった名前だが、協議内容的にはとても公平を重要視する。  どんな改造を施してもかまわないが、相手の命を奪うようなものはご法度。ようは、相手が傷つくことがなければ、何をやろうと平気。相手のフライングに特殊な電波を打ち込んで、相手の動きを封じるなんてことも相手に傷を負わせないのでオーケーだ。万が一にでも、相手を殺すようなことがあるとこの世からの抹消は免れない。裏賭けに参加する全てのフライング操縦者たちが襲い掛かる。  そのために裏賭けと繋がった部品屋などが、裏賭けのエントリーシートを持っている。大会前日までに全ての部品屋から集まったエントリーシートを元に、本部がリスト化。当日にはその半券が必要となる。リストは万が一の時の対策がすぐに行えるようにだ。  そこまで、公平を掲げる裏賭けだが、一般的には毛嫌いされている。やはり、人を傷つけないと言えど、違法改造、所詮賭け事という事実が世間体的に悪く見られてしまうのだ。 「賞金は?」 「そこまで、デカないで。一万二千ちょいや。」 「まぁ、そんなもんだろ。」 「これでワンツーフィニッシュやったら、飯いこな。」 「二位のやつのおごりだろ?」 「へッ・・・ガキどもが調子にのってると痛い目にあうぞ。」  楽しそうに話していた二人におっさんは、厳しく突っ込み、一升瓶を年甲斐なく呷った。
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