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あの人が任務から帰ったら、驚かせてやろう。
「イルカせんせー、たっだい…まあぁ!?」
まずは、猫のような甘く丸い眼とフサフサの犬の耳で貴方にご挨拶。
何時もと違う俺の様子に驚く貴方。どんな貴方も何一つ逃したくない。
仮令(たとえ)、他の忍に白い眼を向けられたり、妬まれたって俺は構わない。
なんでかって言われると、ちょっと照れる。
「イルカ先生、ど、どーしちゃったんですか?」
困惑気味に尋ねる貴方に、最高のスマイルと最高の「おかえりなさい」をプレゼント。
明日が来るかどうかわからないから、不確かな明日が来るだろうことを慶ぶひと時。
俺達が居る忍びの世界は、勝ち負けがはっきりしている。
誰かが勝てば誰かが負ける、そんな浮世だから毎日毎日必死になって忙しい。
『簡単な任務』って、お互いがお互いに言っているけれど、何一つ容易(たやす)い事なんて無い。
だけど、思わず笑みが零れる俺は何て仕合(しあ)わせ者なんだろう。
「イルカ先生忙しいんだよなあ~。」
なんて一人寂しく呟きながら、たったの一人昼食を摂ろうとアカデミーに続く長い坂を彷徨った、ある日の午後。
彷徨いながら見つけた、子供ぐらいしか解らないんじゃないか、入れないんじゃないかと思う道も、変化して費やした歩数を裏切らなかった。
どの道も、あの人がいるアカデミーに続いていると知った。
春夏秋冬、雲の色や形まであの人が見ているものとお揃いであってほしい。
そうすれば、きっと何も欲しいものがなくなるだろう。
もしも今、望みが叶うなら、あの人と呆れるくらい、ずっと言葉を交わしたい。
母国だって同じだもの。
母国情緒 此方(こち)に在りらむ
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