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「あーあ、もう終わりかよ」
「つまんねぇの。帰るか」
床にひれ伏したまま、動けないでいる俺の耳に、儀式を終えた奴らと観衆の、帰っていく足音が響く。
一分もしない内に、クラスは静まりかえった。
立ち上がろうとしても立ち上がれない。
俺の腕も足も、俺のものじゃないかのように、言うことを聞いてくれない。
少しずつ視界がぼやけていくかと思えば、目から潤いが流れていくのを感じた。
涙さえも冷たくて……
ただあいつらと、非力な自分が悔しくて……
俺は静かに一人、誰もいない教室で涙をこぼした。
すると、廊下から足音が聞こえてきた。
こっちに向かってきてるみたいだ……
こんなとこ、見られたくないな……
俺は精一杯の力を振り絞り、体を仰向けにして、涙を拭った。
そして目をつぶり、眠ってるフリをした。
「何してんだお前」
聞き慣れた声がする。
この声は……
俺はそっと、閉じた目を開いた。
「………綾瀬先生………」
あの保健医……
いや、綾瀬先生が不思議げに、床に寝転がった俺を覗き込んでいた。
「ちょっと…眠くなっちゃって…」
下手な言い訳。
わかっていても、それしか思い付かなかった。
それでも綾瀬先生は、優しげな顔をして微笑んだ。
「そうか…」
そんな綾瀬先生を見ると、涸れたはずの涙が込み上げてきた。
「うっ…うっ…」
綾瀬先生は、優しく俺の頭をなでると、そっと体を起こさせてくれた。
「また保健室だな」
俺は綾瀬先生に支えられながら、保健室に戻っていった。
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