救いの手

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教室に着くとすぐに、寂しげに放り出されたバッグが目に入る。 俺はバッグを持ち上げ、来た道を戻って行った。 バッグの中には、今日の授業で使うぶんの教材と筆箱だけが入っている。 弁当はなく、両親から金を預かっているのだが、いつも使っていなかった。 この金も、親が死ぬ想いで稼いでるんだ…… そう考えれば、昼飯を抜くくらい訳なかった。 いつからかは忘れたが、俺はここ最近……いや、ずっと、校内で飯なんか食べた記憶がない。 来年は高校受験が控えていると、教師はテストの度に、何度も同じことを言うが、俺は高校に行くつもりはない。 少しでも早く…… 親に楽をさせてやりたい…… 兄弟の中で長男の俺が頑張らなければ、誰が頑張るというのだ…… 家には二人の妹がいる。 長女の西川 梨乃は小学四年生で、我が家の貧しさを知るには、まだ早過ぎる…… それに、長女なのに次女より泣き虫で子供っぽい梨乃には、こんな現実知らせたくない…… 次女の西川 紫織は、小学二年生とは思えない大人っぽさというか、クールさを持っているが、やはりまだ子供すぎる子供だ。 梨乃より頭の回転も早く、理解が早いが、そのぶんショックを受けやすい。 紫織と会話する時は、言葉を選ばなきゃならない。 そして、この二人にも当然、いじめられているなんて事実は教えていない。 両親があまりいない家で、唯一頼れる長男の俺が、そんなこと知られたら立場ないしな…… この先も知ることはないだろう……  
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