そしてまた一人

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神田先生は生徒がノートに解いてる様子を、まるで観光しているように歩いていた。 「手、動かせ、手。ただ問題を眺めてたって、どーにもならねーぞ」 こんなの、解けるはずがない…… やり方さえ教わっていないのに、どう解けというのか。 予習してれば解ける などと、神田先生は言うが、そんなの間違いだ。 教科書に書いてあることだけで理解できたら、教師の存在理由がない。 教科書だけじゃ伝わらない何かを伝えるために、あんたら教師がいるんだろ!? そう言い放ち、野木を救ってやりたい。 けど、そんな俺の意志を受け入れない喉が、声を出そうとしない。 情けなさすぎる…… かけがえのない、たった一人の友達に、俺は何もしてやれない。 昨日の内に、時間割を教えることが出来てたら、何か少しは変わっていたのかな……? 残酷すぎるこの現実が、深く胸に突き刺さり、昨日とは比べものにならないほどの痛みを感じた。 ……前の黒板を見るが、先程野木が書いた公式しか書かれていない。 後ろ姿だけしか見えないが、野木のつらそうな顔を、想像してしまう…… いやだ…… 見たくない…… そんな顔、してほしくない…… ……失いたくない……  
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