154人が本棚に入れています
本棚に追加
あいのり
「君、どうして死んだの?」
高橋が言った。
暫くの沈黙の後、
「突き落とされたんです」
男は答えた。
「誰に?」
高橋が聞いた。
「実は……」
男は高橋に近付き、耳打ちで答えた。
その瞬間、高橋の顔色が変わった。
「それ、本当?」
「はい。これが証拠です」
男は右腕を高橋に見せた。黒い服を着てた為に分かりづらく今まで高橋は気付かなかったが、右腕に切り傷があった。
「この傷、間違いないね」
高橋は男の切り傷に手を当てた。
「痛かったでしょ」
高橋が手を退かすと傷はなくなっていた。
「凄い……」
男は傷があった場所をさすった。切れていた服までも直っていた。
「これでも寺の人だからね」
高橋は笑顔で言った。
「それならこの傷もお願いします!」
男は左腕を出した。右腕と同じ刃物で付けられたらしい傷があった。
高橋は左腕に手を伸ばし、途中で止めた。
高橋が鈍すぎたのか男が上手く隠していたのか、よく見れば男の両足や胸や腹などには沢山の傷があった。
「突き落とされた?」
無意識に高橋は言っていた。
「切り刻まれた後にです」
男は無表情で答えた。
最初のコメントを投稿しよう!