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ザ・ベストハウス123
それから十分ぐらいの間高橋は男の傷を消し続けていた。
「ふぅ~、また一つ消えた」
ほとんどの傷が消えた所で高橋は一息ついた。
「これで全部無くなりましたね」
男が四肢を見ながら言うと高橋は首を横に振った。
「まだ残ってるよ。君からは見えないとこだけど」
高橋は男の頭を指差した。
男の金髪には赤い血が付着していた。
「実は、そこの傷だけは気付いてたんだけど言い出せなくって」
高橋は男の頭に手を当てた。
「よし、これで全部消えた」
高橋は頷きながら酒を一口飲んだ。
「ありがとうございます」
男は立ち上がりお辞儀をした。
「どういたしまして。ところで……」
高橋はお猪口を置いた。
「君、これからどうするの?」
男は先ほどまで傷があった右腕を見た。
「あれを、なんとかします」
「そう」
高橋の返事は短かった。
「お酒、ありがとうございました」
男は最後にそれだけ言うと雨が降り続く中に走りだしていった。やがて男の姿は闇の中に消えた。
高橋は男の消えた方を見ながら酒を飲み続けた。
その後、雨は静かに止んだ。
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