1870年、桜の希…①

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「ヨ、ヨシノさん?」 忘れもしない、屯所で女中の仕事を厳しく叩き込んでくれたヨシノだった。 「あら~なずなちゃん、久しぶり。すっかり大人っぽくなって。」 なずなの登場を驚きもせず、笑みで迎える。 「ヨシノさん、どうしてここに?」 「どうしてって、ここ私の家なのよ。」 キョトンとして状況の読み込めないなずなに苦笑いを向ける。 「なずなさん、どうです?驚きました?」 間に割って入った市村が得意げに笑っていた。 「…どうですって…こんなサプライズいらないわよ!手ぶらで来ちゃったじゃない!」 「……さぷらいず??」 きっと良かれと思って市村が仕組んだ事なのだろう…もちろん嬉しい…だけど、それよりも混乱と困惑が勝っていた。 「すみません、ヨシノさん…せっかくの再会なのに…。」 なずなの言葉にハテナを浮かべる市村にかまわず頭を下げる。 「いいのよ、いいのよ。それより二人の相変わらずの仲の良さにホッとしたわ。」 市村となずなを交互に見つめ、目を細めている。 「でも……。」 なずなは困惑顔で俯く。 再会できるなら、用意周到で来たかった。 ヨシノには特にお世話になったのだから、成長した所を見せたかったのに。 「鉄之助くんがね、なずなちゃんを驚かせたいから、こっちから会いに行くまで来るなって。」 「テツくんが?」 顔を向けると、なずなに叱られ口を尖らせている。 「ちょうど二日前だったかしら?偶然会ってね、その時は少ししか話せなかったから、是非って誘ったのよ……いろいろ、頑張ったね……。」 重みのある言葉に、ふいに涙がこぼれそうだった。 ヨシノと別れたのは、もう4、5年前の事だ。 あの時は、まだいたんだ…みんな……。 こうして、新撰組の話ができる人は貴重な存在だった。 鳥羽伏見の戦いで負けてすぐに引き揚げた為、京で仲良くなった人達とは別れも言えぬまま、音信不通となっていた。 「とにかく上がって。もうじきお昼終わるから待っててちょうだい。」 背中を押されると、厨房から座敷へと通される。 相変わらず、ヨシノは忙しそうで、弾むような足音はそれを楽しんでいるようだった。 .
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