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「ヨ、ヨシノさん?」
忘れもしない、屯所で女中の仕事を厳しく叩き込んでくれたヨシノだった。
「あら~なずなちゃん、久しぶり。すっかり大人っぽくなって。」
なずなの登場を驚きもせず、笑みで迎える。
「ヨシノさん、どうしてここに?」
「どうしてって、ここ私の家なのよ。」
キョトンとして状況の読み込めないなずなに苦笑いを向ける。
「なずなさん、どうです?驚きました?」
間に割って入った市村が得意げに笑っていた。
「…どうですって…こんなサプライズいらないわよ!手ぶらで来ちゃったじゃない!」
「……さぷらいず??」
きっと良かれと思って市村が仕組んだ事なのだろう…もちろん嬉しい…だけど、それよりも混乱と困惑が勝っていた。
「すみません、ヨシノさん…せっかくの再会なのに…。」
なずなの言葉にハテナを浮かべる市村にかまわず頭を下げる。
「いいのよ、いいのよ。それより二人の相変わらずの仲の良さにホッとしたわ。」
市村となずなを交互に見つめ、目を細めている。
「でも……。」
なずなは困惑顔で俯く。
再会できるなら、用意周到で来たかった。
ヨシノには特にお世話になったのだから、成長した所を見せたかったのに。
「鉄之助くんがね、なずなちゃんを驚かせたいから、こっちから会いに行くまで来るなって。」
「テツくんが?」
顔を向けると、なずなに叱られ口を尖らせている。
「ちょうど二日前だったかしら?偶然会ってね、その時は少ししか話せなかったから、是非って誘ったのよ……いろいろ、頑張ったね……。」
重みのある言葉に、ふいに涙がこぼれそうだった。
ヨシノと別れたのは、もう4、5年前の事だ。
あの時は、まだいたんだ…みんな……。
こうして、新撰組の話ができる人は貴重な存在だった。
鳥羽伏見の戦いで負けてすぐに引き揚げた為、京で仲良くなった人達とは別れも言えぬまま、音信不通となっていた。
「とにかく上がって。もうじきお昼終わるから待っててちょうだい。」
背中を押されると、厨房から座敷へと通される。
相変わらず、ヨシノは忙しそうで、弾むような足音はそれを楽しんでいるようだった。
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