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穏やかな男の声だ。
千緒は反射的に顔を上げる。
綺麗な男だった。
スラリとした長身に、人形のように整った顔。
公園には不似合いな燕尾服や、頭の上に乗っかっているシルクハットもまるで気にならないくらい、彼の顔は人目をひいた。
「こんにちは。学校はどうしたの?」
口端を持ち上げて優美に微笑む。
千緒はあまりに美しい男に見とれて呆然としながら答えた。
「あ……えと、自主休校です」
「自主休校?
へぇ、君おもしろいね。隣いい?」
「あ、どぞ」
クスクスと笑いながら男は千緒の隣のブランコに座った。
「ところで、君には欲しいものはあるかい?」
「え…?いや、特に……」
唐突に切り出された話に、千緒は戸惑う。
「本当に?」
「はい……あ、いや、そういえば洗剤が切れてた」
強いて言うなら洗剤が欲しい、と千緒が言うと、男は声を上げて笑い始めた。
「洗剤!? ははっ本当に君って面白いなぁ」
言いながらも、まだ笑い続ける男に千緒はムッとする。
初対面なのに、ずいぶん失礼な人。
千緒の様子に気づいた男はニコリと笑いかけてくる。
「ああ、ごめん笑っちゃって。
無欲な子だなって思ったんだ」
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