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「無欲?そんなことないと思いますけど」
千緒が言うと、男はクスクスと笑う。
「いや、君は無欲だよ」
だって僕は、と男は続けた。
「欲しいものがありすぎて困るんだ。
お金が欲しい、
女が欲しい、
そして、
人間のいない世界が欲しい」
そう言った男の声音に、千緒の背筋はゾクリと凍った。
さっきまでの穏やかな雰囲気はどこにもない。
見ると、彼が笑っていた。
美しく、だが残忍な笑みを浮かべている。
「今日は一人なんだね、千緒ちゃん」
男はブランコから立ち上がり、千緒に手を伸ばしてきた。
叫ぼうとした。が、喉が凍りついて声が出ない。
男の指が千緒の首に触れるか触れないか、その瞬間。
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