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「繭美っ」
威勢のいい声がして、後ろから、軽く肩を叩く代わりに背中を拳で強く殴られる。咳き込みながら振り返ると、そこにはやはり珠美がいた。
「…たまちゃん、」
「名簿見た?同じクラスだよ」
珠美は私を見てにっこりと満面の笑みを浮かべた。
珠美は変わっている。
ソフトテニス部で、中学生らしい体型で、きらきらの瞳とつるつるの肌とつやつやの髪を持っているのに、普通の女の子になろうとしない。
せっかくの柔らかくつやめいた髪も、いつも青いゴムでひとつに束ねている。女子独特の「おしゃれ」が嫌いな、男の子のような女の子なのだ(事実、彼女は小さい頃からボーイスカウトに入っていて、自分を僕と呼ぶことに全く抵抗がない)。
珠美は純粋すぎるのだ、と私は思う。だって彼女は女の汚さをどこかに置いてきてしまったかのように私を信頼しきっているし、私の信頼にも応えてくれる。
要するに珠美と私は細かい理屈のいらない親友なのだ。
あのときも、いまも。
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